■ ト ウ ロ ク キ ヤ ク ■

「いい話があるんだけど」
 そう、あいつが持ち掛けてきた話で良いものなど1つも無かった。
 だから、オレが不機嫌な顔のまま返事をせずにいると、更に飲んでいた苺ミルクのストローをオレの鼻先に近づけて、やってくんないかなー、と言い出した。甘い匂いが当たり一面に充満する。あいつが移動する度に苺ミルクも一緒に行くものだから、今はもう、教室全体が苺畑になったようだ。
 あいつの話に耳を傾けたら、いけない。
 少しでも聞く素振りを見せた時点で負けだと分っているけど、直ぐに頷くのは癪に障る。仕方なし、オレは不機嫌なだけ不機嫌な顔をし、頬を限界まで膨らませ、あいつがポケットに忍ばせている菓子を全部貰ってから話を聞くことにした。
「で、なに?」
 どうせ、下らない話だ。
 なのに、あいつは妙に神妙な顔をして重大任務だ、と国家機密を告げる慎重さで告げた。
「お前に、創作BL総合ランキングサイトを作って欲しい」
 初めて聞く単語に、思い切り顔でワカリマセンと伝えたところで見事に無視を決め込むのが彼の得意技。
「文芸部の部長さんに頼まれたんだけどねー、俺、いそがしーし! ホントは忙しいとかゆう男、俺、大っ嫌いなんだけど、マジ、時間がねーので、お前に託す! 基本、ケータイっつってたから、この携帯電話使って作れ。期限は一週間! 分かんなくなったら、俺のメアド、そのケータイにぶっこんどいたからメルしてちょー☆」
 それじゃあハニイまた来週! と、嵐のように現れた男は嵐のようにオレの私生活予定を全て崩して走り去った。放課後の教室に残されたのは、オレと新しい携帯電話。そして、分厚い取り扱い説明書が一冊。開くとハート型にくり抜かれたメモ用紙に『創作BL総合ランキング。カテゴリ別。携帯電話から閲覧できれば漫画も小説もOK。基本、ラブ』と、書かれていた。文字からして、あいつのものだ。あいつが文芸部の部長に頼まれた際に、内容を書き留めたメモだろう。
 しかし、恥ずかしいというか、珍しいというのか、オレは今まで一度も携帯電話を契約したことがない。余り、必要さを感じなかったので持たずにいたのだ。けれども、携帯電話を渡されたと言うことは、ケータイサイトを作れということに違いない。
 結局、オレは金曜日の今日、全ての自由時間を携帯電話の操作に費やした。
 
 翌日、土曜日。も、朝から携帯電話を片手に悪戦苦闘してみる。うん、まさに悪戦して苦闘。操作も良く分らない人間がサイトを作るなんて無謀な話だ。技術の授業でパソコンサイトを作らされたことはあるけれど……似たようなものなのかな、と、色々試してみる。忙しい、忙しいと云っていたわりに、あいつへメール(アドレスも、あいつのしか登録されていなかった)すると、十分以内に返信が来ることについ驚く。
 よく女子とメールアドレスを交換していたから、凄くマメなのかも知れない。
 と、云うか、メールが好きなのかも知れない。でも絵文字満載のメールは楽しいけれど見難いので、少し困る。
 
 結果、日曜日。深夜、漸くあいつが言っていた「BL」の意味が分った! ベーコンレタスの略? くらいにしか思っていなかったオレは、初めて「ボーイズラブ」と言う単語を知り、どうやら、それが女子に凄く人気があるらしいことまで学ぶことが出来た。そういえば、文芸部の部長はいつも沢山の本を読んでいて(まあ、文芸部だし)中には、こういう話もあるって言っていた覚えがある。
 ただ、もっと驚いたのは女子だけでなく、男子にもボーイズラブが好きな人がいる、ってことで。正直、オレみたいな男にチューとかしようとする男なんてあいつくらいなものだろう、って思っていただけに驚いた。ついでに、ちょっと安心。
 BLを扱っているサイトへ行くと、殆どがランキングといわれるものに参加しているので、大分、参考になった。

 まず、ランキングに参加するには携帯電話から閲覧できるサイトを持っていること。コンテンツが少なすぎると少し寂しいから、いくつかはあった方が良いみたい。
 それから、普通はサイトを登録するランキングが殆どだけど、作品直結を許可しているランキングもある。その場合、「サイト名」ではなく、「作品名」でのリンクとなっていて、もちろん、登録アドレスは作品に直結できるアドレスだ。
 ただ……驚いたことに、BLってボーイズなラブだから少年漫画の延長線みたいなものかな……って思っていたら、18禁とか、15禁、中には20禁なんていうのもあって一瞬、携帯電話を落としそうになってしまった。あいつは良く、18歳未満なのにAVとか見るけど(それも、どうかと思うけど)やはり、18禁は18歳未満は見ない方が良いと思う。それに、オレより若い管理人が18禁サイトを運営するのも違反なんじゃないかな。もしかしたら、小学生くらいでもケータイサイト巡りをするかも知れないから、アダルトコンテンツを取り扱う場合は年齢規定をサイト説明文に表記しないと危険だよね。きっと、殆どのランキングの管理人が、そういうサイトを見つけたら強制的に削除しているんじゃないかな。創作BLとは全く無関係の出会い系サイトとかも、きっと直ぐに削除だよね。
 
 でも、見ていると沢山の創作サイトが自分のサイトの説明をしていて、読んでいるだけで面白いんだ。余り、猥褻な単語を並べられると困るけどね。女子って……いいや、なんでもない。
 登録すると、直ぐに登録完了メールが送られてきて、そのメールに記載されているランキングタグを自分のサイトに貼り付けると、ランキングへの登録が完了するみたい。ただ、偶にランキングから行こうとしてもエラーになってるサイトや、ランキングタグを押しても投票ボタンが出ないサイトもあったりして、そういう場合は管理人も使用者も残念な気持ちになると思うから、ランキングタグはしっかり自分で確認をしようと思う……って、オレは自分のサイトは作らないけどね。
 あ、リンクタグのランキング名は、多少なら改変しても良いみたい。確かに、これだけオシャレなサイトが多いと、ランクタグ1つにしてもこだわりがあるんだろうな。きっと、あいつがサイトを作ると凄くオシャレだけど、凄く見難いサイトを作ると思う。
 
 そうそう、順位を見ていて初めて気が付いたんだけど「IN」と「OUT」って言うのがあるんだね! 「IN」は登録サイトからランキングへ来た人の延べ数、「OUT」はランキングから登録サイトへ赴いた人の述べ数。「IN」数の多いサイトが上位に表示されているんだけれど……凄い人気サイトもあるんだなあ! ランキングリセットで月に一度くらいの割合で「0」に戻るみたいだけど、中には継続型や45日リセットとかいう日数指定型のところもあるみたい。
 確かに、リセットしないと下位のサイトを見つけるのが大変だもんね。上位サイトも凄いけれど、オレは下位のサイトでも凄く面白いなって思うところがあって……そういうサイトを見つけるときは検索が便利だね。
 オレのようにカテゴリだけじゃなく、検索でサイトを探す人もいると思うのでサイトを表す言葉が説明文にあると見つけやすくて助かるな。でも、単語だけ並べられても、今度はサイトの雰囲気が伝わりにくくて……難しいなあ。作文よりも大変だ。
 わからなくなったら、あいつにメールっていうか、ランキングサイトの下の方に相談窓口のようなメールフォームがある場合が殆どだから、それで管理人さんに質問すれば大丈夫だね。

 サイト作成に当たり、沢山のサイトを拝見したけど……うん、どこも皆、愛溢れるサイトばかりだった! 面白い話や、悲しい話、楽しい話、オレたちのことかな、って思うくらいドキドキする話。色々あるけど、小説を書くのも、イラストを描くのも、きっと、とてつもない時間と愛情が必要だよね。だから、オレはなるべく拝見させてもらった時には「ありがとう」って伝えるようにしようと思う。
 そうすれば、管理人も嬉しいと思うし、嬉しくなればもっと頑張れるもんな!
 うん、オレも頑張ろう。ランキングサイトって、サイト管理人と閲覧者を結ぶ、大変な役割を持っているじゃないか! オレの作るサイトがもしかしたら……って考えると、それだけで興奮して月曜から木曜日は、本当に楽しく作業が出来たと思う。
 
 そして、約束の金曜日。
 あいつに出来たサイトを見せると「頑張った!」って言いながら、オレの頭を目一杯グシャグシャに撫で回し、それからオレに貸してくれた携帯電話を再びオレの手の中へ押し戻して、「プレゼント」と短く言った。
 やはり、あいつの言葉がうまく理解できないオレは、一週間前と同じ顔をしてみせる。
 すると、あいつはとびきりの笑顔で「誕生日プレゼントだぜ、感謝しろー!」って、叫んで笑って教壇に招き、黒板の日付をハートに囲んでウィンクを飛ばした。
「もー、俺、いつかお前にバレちゃうんじゃないかって、ちょー焦った! めいっぱい忙しく、お前が自分の誕生日のこと忘れるように頑張っちゃったぜ。これで、お前はケータイの使い方も覚えたし、一週間も使い込んだケータイだから今更、受け取れねえとか言わせねえし、ラブいメールも沢山つめといたし、ボーイズラーブな世界を学んで、ちったあリカイ深めたとか期待してんし、何よりもねー、」
 と、そこであいつは堂々と教室も教壇の上でおれに口付けると、
「カップルブログっつーの? 全世界にオレたちラブラブです! って発信するやつ。アレ、やってみたかったんだよなー」
 コーカイシューチプレイだぜ! と、付け加えて悪戯に目を細めた。そういうのは物凄く恥ずかしいので、やめて欲しいけど……好奇心と行動力が共に発動するあいつは、もしかしたらこの一週間、それを作っていたのかも知れない。怖くて、とても聞けないけれど、もし……もし、そういうブログを作った時には絶対に、ランキング登録は止めて貰おうと思う。

 『登録規約にカップルブログ禁止、って加えてね。』

 そう、文芸部の部長へ後日メールをしたら、直ぐに『御馳走様』と、文芸部らしい返信が来た。
「お、四字熟語!」なんて画面を覗き込んで言うあいつは、ことの重大さがイマイチ分っていないようだ。
LoveLoveLove、隣で口ずさむのは良いけれど、告白みたいで照れるんだ、なんて理由は……今はまだ、言えない。




(人´∀`){御覧頂き、誠に有難う御座います! 
一度でイイから説明文小説と言うものを書いてみたくて、やってしまいました……
水色文字部分が当サイトの規約や主旨となっております。
ご理解頂けましたら幸いに存じます。

●管理人:テル

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